メトロドロスは記憶術を完成させた~占星術的記憶術【BC100年】

哲学者メトロドロス

キケロがローマ時代に活躍していたほぼ同年代に、ギリシアに「メトロドロス(Metrodoros)」という天才的な記憶術の使い手がいました。※紀元前331年~278年頃

メトロドロスは哲学者です。ギリシアのトロアス半島出身のスケプシス人だったといいます。

デモクリトスの弟子で、原子論とエレア派の存在論との調和を試みたといいます。

メトロドロスは、シモニデスの直後くらいに誕生しています。キケロよりも早い時期の人になります。

シモニデス~記憶術の起源「座の方法(ローマンルーム法)」【古代ギリシア BC500年】キケロの記憶術【ローマ時代 BC100年頃】

メトロドロスは驚異的な記憶力の持ち主だった

記憶術の歴史の中において、メトロドロスはほとんど知られていません。

けれどもキケロの「弁論家について」の中で、メトロドロスは紹介されています。キケロの書には「神的な記憶力を持った偉人」として紹介されています。

キケロの記憶術【ローマ時代 BC100年頃】

キケロの「弁論家について」によれば、メトロドロスは「あたかも文字を蝋版(ろうばん)に刻み込むようにして、覚えたいことを『イメージ化』し、あらかじめ用意してある「場所(記憶の宮殿)」に書き込みことにしていると語っていたのである」と記されています。

メトロドロスは一字一句を正確に記憶する驚異的な記憶力の持ち主だったようです。

しかしその記憶力の秘密は「記憶術」だったわけですね。

メトロドロスは記憶術を完成させた

記憶術の古典書を書いた「クィンティリアーヌス」は、メトロドロスに対して「彼は自慢屋で山師である」と見下した評価をしています。しかしクィンティリアーヌスの言い方は少々ひがんでいる印象を受けます。

記憶術における三大古典【紀元前後ローマ時代】

というのも一方では、ローマ時代の歴史家で百科事典も著したプリニウスはメトロドロスを称讃しているからです。

プリニウスの見解によれば「記憶術はシモニデスによって発明され、メトロドロスによって完成された。メトロドロスは聞いたことを一語一句違わずに繰り返すことができた」とあります。

つまり記憶術は、古代ギリシアのシモニデスが発案し、メトロドロスが完成させたということです。

記憶術の代表的古典書「ヘレンニウスへ」は、メトロドロスの記憶術を参考にした可能性があるという指摘すらあります。

日本の記憶術の世界では、ほとんど知られていないメトロドロスですが、記憶術を完成させたと言われるメトロドロスの記憶術とは一体、どういうものだったのでしょうか。

メトロドロスの占星術的記憶術

メトロドロスの記憶術については、おそらく当方のHPが最初に紹介することになるでしょう。

メトロドロスの卓越した記憶力は、なんと彼が独自に生み出した記憶術によるものだったといいます。それは「黄道十二星座」を利用した記憶術でした。「星座記憶術」「占星術的記憶術」とでもいってよいかのような記憶術です。占星術とも関連していたとの指摘もあります。

メトロドロスはハーモニクス占星術の先駆け

実際、メトロドロスの記憶術は、黄道十二星座(宮)をさらに分割し、36星座(宮)、360星座(宮)として使っています。

この分割は占星術の世界でも使われる「ハーモニクス」と言われる手法です。現代では「サビアンシンボル」「サビアン占星術」とも言われています。

「ハーモニクス」の概念はインド占星術の分割図に由来します。なおインド占星術には、36分割図、360分割図はありません。36または360分割図は西洋占星術で考案されて発展していった手法になると思います。

メトロドロスは、ハーモニクス占星術の先駆けといってもよいでしょう。

12星座・36宮・360星座を記憶の宮殿の使う

メトロドロス記憶術とは「黄道十二星座・占星術的記憶術」と言ってもよいかもしれません。

メトロドロスは、これらのハウスを「記憶の宮殿」として使用していました。原理的にはシモニデスの「座の方法(ローマンルーム法)」と同じです。

メトロドロスは、自身で考案した占星術的記憶術を使って完璧な記憶ができたようです。

占星術的記憶術は場所法+変換法

メトロドロスは、黄道十二星座を使用した記憶術を用いていましたが、原理的には「場所法」になります。また「変換法」のテクニックも使用していたようです。

変換法は、当時としては興味深い斬新なテクニックであり、キケロの書では「速記文字の使用」と紹介されています。

ですが、この「速記文字」とは、暗記を素速く行うための「変換表」を示しているのでしょう。

ウィンケルマン【ドイツ】ペグ法・数字変換法記憶術の創始者【17世紀】

覚えにくい物事を変換して記憶しようとするノウハウは、現代の記憶術にも多くあります。しかしメトロドロスは、あらかじめ物事をイメージ化するための「変換法」をいち早く使用していた可能性があります。メトロドロスも、シモニデスに引けと取らない天才でしょう。

現代記憶術に通じるメトロドロス

メトロドロスの記憶術は興味深いテクニックになりますが、記憶術の世界では、ほとんど言及されていません。メトロドロスは占星術に通じていた可能性もあり、不思議な人です。

もっともメトロドロスは、生来の記憶力が抜群に良かったと推測することもできます。元々記憶力の良いメトロドロスが、記憶術を使うことによって神業的な記憶能力を発揮していたというのが事の真相ではないかと思います。

それにしてもメトロドロスも記憶術を作り上げた天才の一人でしょう。現代記憶術に通じるノウハウも使用していたのは驚異的です。

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