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リチャード・グレーのイギリス記憶術
ウィンケルマンの数字変換法が世に出た後、イギリス人の「リチャード・グレー」(1696年~1771年)という人がさらに改良を加えます。
リチャード・グレーはオックスフォード大学を卒業した後、教会牧師となり、イギリス・ベッドフォードの副司教も務めます。
知識人でもあったリチャード・グレーは、ウィンケルマンが開発した「数字変換法」をベースに改良を施して新しい変換記憶術を生み出します。
これは現代で言うところの「文字変換法」という記憶術です。
リチャード・グレーの記憶術は、1730年に出版した「記憶の技術(メモリアテクニカ)」という本に詳しく掲載されています。
この記憶術は当時「ユダヤ式記憶システム」とも言われていたようです。
ヘクサメトロス(六歩格)
リチャード・グレーの方法は「ユダヤ式」とも言われた文字変換法記憶術です。
「ヘクサメトロス(六歩格)」と呼ばれる詩の形式を利用しています。
ヘクサメトロスとは、1行の中で6個の韻を踏む詩でありながら、言葉の最後に韻を踏む形式の詩をいいます。
実は記憶術の元祖であるシモニデスらが作っていた叙情詩もヘクサメトロスであったといいます。
意外と知られていませんが、シモニデスが作った詩は韻を踏んだヘクサメトロスであり、これはと記憶術とは深い関連性があります。
文字変換法記憶術のやり方~ヘクサメトロスとニーモニック・デバイス
ヘクサメトロス的なリチャード・グレーの記憶術のやり方をご説明しましょう。
たとえば「紀元前2348年の大洪水」を記憶する際、「Deletok」とします。
Deletok
Del・・・deluge(洪水)のDel。
etok・・・2348を文字変換した言葉。
このように単語を分割します。
リチャード・グレーの記憶術とは、
- 単語の前半(接頭語)・・・暗記したい言葉から印象に残る一部を取り出す
- 単語の後ろ(接尾語)・・・暗記したい数字を文字に置き換える(ニーモニック・デバイス)
という構造となる合成語(グレー・メモリアル・ライン)を作る方法になります。
実際の用例としては、次のような接尾語(ニーモニック・デバイス)をあらかじめ用意しておきます。
az = 10
tel = 325
teib = 381
こうした言葉を文字の最後に付け加えて、暗記の便を助けます。文字の最後に変換した記憶術コード(ニーモニック・デバイス)を付け加えて年代などを暗記します。
こうしたニーモニック・デバイス(接尾語)が言葉の後部に付いた新たな言葉を「グレー・メモリアル・ライン」といいます。当時は、学生らは歴史の年号を暗記のためにこぞって使用したようです。
大人気だったリチャード・グレーの記憶術
リチャード・グレーは、古典的記憶術の手法を応用して「数字の記憶」に活かせる方法とし、なおかつウィンケルマンの「変換法記憶術」に修正を加えています。
年代の暗記・地理学・重量・長さといった度量衡や数値・天文学・日付などといったおよそ数字の記憶には重宝したようです。
そのためリチャード・グレーの記憶術は、18~19世紀における約130年間、ドイツでは大変な人気を博したようです。
この方法は欧米圏ならではの記憶術でもあります。単語の後ろに韻を踏む言葉を付け加えて、新しい言葉にする方法です。
こうした言葉の語感や思考の仕方は欧米圏特有になります。日本人や日本語にはそぐわないやり方にもなります。
けれども文字変換を利用した方法としては注目に値し、現代記憶術に通じるノウハウを内包しているといえます。