政治家キケロの記憶術【ローマ時代 BC100年頃】

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政治家キケロの記憶術(ローマ時代)

シモニデスが記憶術を世界で初めて発案した当時は、記憶術は顧みられることはありませんでした。

しかし、シモニデスが亡くなってから400年くらい経った頃、記憶術はローマで注目を浴びるようになります。きっかけはキケロという政治家です。

キケロ(マルクス・トゥッリウス・キケロ)は、紀元前106年~紀元前43年まで活躍したローマ時代の政治家であり哲学者、また弁論家、弁護士、文筆家でした。

若いときは、濡れ衣を着せられた食客のために弁護を行い、またシチリアの政治家が行った不正に対して弾劾演説をして、政治家として名声を博するようになります。

キケロは政治活動を通して、弁論術に関する考えをまとめた「弁論家について」という書を著します。この書の第二巻で、記憶術について言及しています。

キケロは弁論に記憶術を使うことを推奨

キケロは弁論に記憶術を使うことを推奨していました。何故、弁論に記憶術を使うのが良いのかについては、古代ギリシアのシモニデスが使用した記憶術のエピソードを引用して説明しています。

キケロは、シモニデスの事例を踏まえて、弁論家にとって記憶力は必須であると説きます。

弁論、係争、答弁、あるいは即効的な討論や論争において、記憶力は重要であるといいます。およそ対話をする場合、記憶力の良さは有利に働くと述べています。

しかし文章や言ったことの全てを記憶できる人はいないため、「記憶力を伸ばす必要がある」とキケロは言います。

で、「記憶力を伸ばす」ために「記憶術が役に立つ」と言うわけです。

キケロが書き記した「弁論家について」には、こうした話しが載っています。そしてシモニデスの記憶術は明察であるとして、キケロは記憶術について語りはじめます。

キケロの記憶術はイメージを使った記憶術

キケロは、「記憶とは、感覚を伴って心に刻印されるもの」で、我々がもっとも鋭敏に感じる感覚は「視覚」であり、視覚を通したほうが記憶が定着すると喝破していきます。

つまり「イメージ」こそ、記憶強化を図る感覚(視覚による感覚)であるといいます。

そうして、記憶を素早くイメージ化する記憶術の方法を語ります。

キケロの記憶術は、「語呂合わせ」などの修辞的な方法と、イメージを場所と絡めて暗記する「場所法」としての記憶術の2つになります。

キケロの記憶術とは、現代の記憶術と本質的には同じです。実に2000年以上前に、記憶術の原型が作られていたことも分かります。

キケロの記憶術は場所法と語呂合わせ

キケロの記憶術とは、上記の通り、現在で言うところの「語呂合わせ式記憶術」「場所法(座の方法、ローマンルーム法)」であることがわかります。

語呂合わせ記憶術~誰もが使える暗記方法 記憶術・場所法の完全解説!~やり方・コツをわかりやすく説明

弁論家のキケロは、即効的な対応が必要とされる演説において、記憶術を活用する方法を述べます。

状況に応じて即効的に記憶術を使うやり方になるわけですが、キケロのテクニックは、公会堂の窓や柱、壁、彫刻品などに、演説する内容をイメージで結びつけて記憶していくやり方になります。

これはまさにシモニデスが使用していた記憶術(場所法、座の方法)と同じです。

キケロは記憶術を使って正確な弁論をしたといいます。このキケロの記憶術は、話題となって伝承され、近代における記憶術へと進化もしていっています。

現代においては「人生における成功」「立身出世」という目的で記憶術も使われるようになっています。

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